2002年01月08日(火) |
転んだら、もう起きない♪ |
彼女が、それを最初に実践してみたのは、多分、中学の体育の時間。
何かの拍子に、ビターン! と、すってんころりん、
ウルトラマンの飛行中みたいなポーズで、彼女は考える。
『そういへば、”転んでもタダでは起きない”って言い回しがあるなぁ。
なにか拾うもの、ないかしら?』
見回すと、 …どうだろう!!
辺りには、素晴らしいミクロの世界が広がっているではないか!
彼女は自分の近視に感謝したくらいだ。
運動場の土の粒粒がちょっと角ばっていることなんて、彼女は知らなかった。
ただ黄色いと思っていた地面が、実は、
透明で尖った奴、黒くて小っこい奴、茶色くて潰れた奴、赤っぽい丸い奴らの集合体であることなんて、彼女は知らなかった。
キラキラ光って平べったい奴もいた。 それは雲母だった。
トラックの中なのに、時々、小さい砂利も混じっていた。
危ないので、彼女はそれを指でつまんだ。
「A(彼女の苗字)、どうした!?」
誰かの声が遠くから聞こえる。
でも彼女は地面の観察の方が楽しいので、
腹ばい姿勢のまま、ニコニコと笑っている。
…
そのうち肩の辺りを ぐぃっ と捕まえられて、
彼女は強制的に起こされた。
目の焦点が近いところに合ったままなので、状況がよくわからない。
誰かに文句を言われていたようだが、
別にいいだろう。 どうせ、大勢に影響はない。
彼女の体育の成績は、いつも最低だった。
===
彼女の妙な癖は、そこから始まった。
乾いた地面を見つけると、とりあえず寝てみる。
それは運動場だったり、校門近くの駐車場だったり、道路の真ん中であったりした。
日当たりの良い場所が好きだった。 日陰にはナメクジが出るかもしれないから。(注1)
腹ばい姿勢以外に、仰向けも試してみた。
南中する太陽は眩しくてしょうがないので、それは朝方や夕方が多かった。
誰よりも早く登校して、気が向いた場所に転がる。
そうやって、よく空を見ていた。
雲の形が色々違うのがわかった。
夏は近くて高かった。 秋は薄くて遠かった。
近くの雲は早く動くのに、遠くの雲は殆ど動かずにいるのが、とても不思議だった。
台風の前になると、そいつらまでもがちょっとづつ動いているのは、嬉しかった。
道路への腹ばいは、特に面白かった。
舗装道路には色々な種類があることを、その時、初めて知った。
校門前には小砂利の混じった舗装がしてあった。 大通りは均質なアスファルト。
裏道に寝転がると、大抵、顔のすぐ横に犬の糞を見つけて ギョッ として起きた。
やはり、陽の当たる場所が最高♪
朝の道はひんやりしていて、夕方の道はほんのり暖かかった。
彼女は”世界”と会話をしていた。
===
でもその行動は、他人の理解を得難かった。
「そこで、何をしているの!?」
「危ないじゃない! どうしたの?」
大抵、そんな言葉とともに、強く腕を引っ張られて、彼女は起きる。
不本意だ。
当時の彼女には、何故”寝る”のが悪いのか、全く理解不能だった。
車に轢かれて死んでも全然構わなかった。 寧ろ本望だ。
”消費一方通行で、生産活動に一切関わらない、非社会的存在”
そんな自分が嫌いで、人生にリセットをかけたいと願っていたところなので。
…
でも彼女は、ある日、自分から”寝る”のを止めた。
駐車場で寝ている時、いつも話しかけてきてくれる保健の先生が、
本当に優しく、突然、こう言ったから。
「ねぇ、お医者さんに行かない?
お父さん、お母さんには、先生から説明するから…。」
『おお、この行為は”親”に迷惑をかけるぞ!』
彼女は、ガバ と立ち上がる。
”自分という生命を、何故か、社会的・経済的に維持しようと望んでいる、不可思議な存在”(注2)
に、これ以上の厄介をかけるのは、猛烈に不本意だったので。
そして彼女が公共の場に寝転がったのは、それが最後となった。
===
現在、大人になった彼女は思う。
『道路や駐車場で寝てる時、轢かれてなくて良かったなぁ。
それで怪我したり死んだりしてたら、車の運転手に対して大迷惑だわ…。』
”何故、当時、誰もそのことを説明してくれなかったのだろう?”
彼女の疑問は、そこにつきる。(注3)
=== ===脚注=== ===
注1: 彼女はナメクジ恐怖症である。きっと脳内に”ナメクジ細胞”があるに違いない。
参照:『NHKスペシャル 驚異の小宇宙・人体 part 2 脳と心 2: 脳が世界をつくる−−知覚』
NHKエンタープライズ [1993] 59分 VHS
注2: これまた当時の彼女には、何故、”親”がそのような行動をとるのか解らない。
今でも時々は、悩む。
注3: 普通は解るからだよ! by まりぃ。
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