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”私”という名の”彼女”

 

”彼女”は私であり、”私”は彼女である。
そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
 



 
2002年01月19日(土) 熱傷と私(2)

(こちらから先にどうぞ♪)


添乗員は中国語が堪能。 留学経験もあり大陸中国の事情は熟知していたので、非常に的確なトラブル対処をしてくれた。
(注1)
だが、その彼女の交渉術をもってしても、私を受け入れてくれる救急病院は皆無。 救急車も呼べなかったことは、特筆に価する。
右大腿の皮膚面積50%を超える広範囲の熱傷に、救急病院が対応しなかったというのは凄まじい。
感染・ショックの危険性もある。

外国人を受け入れられる病院は数が限られている上、営業が9:00からだということで、私は4時間もの長きに渡り流水に体温を奪われ続け、歯の根も合わず、震えていた。
(注2)
夏とはいえ、朝の水は冷たい。
頻繁に小用を催したが、洋式便座に座ることは ”これ以上、皮膚を喪失する危険” を伴っていたため、そのまま垂れ流した。
情けなかった。

小便以外にも体液の消耗が激しいので、日本から持ってきた昆布茶を作ってもらってやたらと飲んだ。
(注3)
温かい昆布茶。
それを運んでくるとき、夫の顔は少し歪んでいた。
例のポットを使う必要があったから? でも、ポットには何の罪もないのだ。

 ===

8:45分、手配してあったタクシーが到着。 私はびしょぬれのまま、ホテルのバスローブを羽織って外へ出た。
冷えすぎて身体がまともに動かず、夫に支えられながら、長い廊下をロビーへ向かう。
濡れたバスタオルで患部を覆ってはいたが、到底全ては隠し切れなかった。
丁度、朝食時間で、廊下には沢山の人がいた。
擦れ違った宿泊客が、目を見開いて
 「Goodness...!」
と、呟く。
新鮮な朝の気分を台無しにして、申し訳ない。

タクシーのシートが布張りでなかったのは、不幸中の幸いだ。
(注4)
私は運転手にも、すまないと思った。
羽織っているローブを、汗に似た生臭さの滲出液が湿らせる。
 『これ、あとでホテルに返すんだよな。 罰金、とられないかな?』
そんなことを、ふと、考えた。


朝の北京は、酷く混んでいて、車はノロノロと進んでいた。
その内、私は奇妙な感覚に捉われ始める。 熱感が右脚を襲うのだ。
ガスバーナーで炙られているような、そんな痛みに頭が痺れた。
脚を巻いているタオルから、湯気が上がりそうだった。
身体が灼ける! 熱い! 我慢できない!

 「…まだ、着きませんか?」
そんな泣きを入れる私の声は、震えていた。
付き添って来てくれた添乗員は言う。

 「もうすぐですよ。」

でも、それは優しい嘘だった。
実際に病院へ辿り着くまでの30分以上、彼女が何度 ”もうすぐ” と口にしたことか。

夫は夫で、私の気を紛らわそうと、絶え間なく喋っていた。
中国語の看板の文字を読んで、正解を添乗員に尋ねたり、片言で運転手と話してみたり…。
でもその時、彼は自分の中国語のリハビリをしていたのだ。
数十分後、病院で、彼は医師の助手をすることとなる。

 ===

私が運び込まれたのは、中日友好病院。
医師も看護婦も皆、日本語の片言が話せるのは良かったが、熱傷患者を運ぶストレッチャーはないらしく、私はここでも長い廊下をひたすら歩き続けた。
体温で温まったバスタオルと焼けた肉とが擦れて、呻く。
痛みの余り、思わず、タオルを取ってしまうと、原爆資料館を髣髴させる豪快な火傷が顔を出す。

 「すげぇな…。」
ちょっと感動する私。 
無限大のバカだ。 脳まで爛れていたに違いない。

そのとき、問診表をもってきていた看護婦が小さな悲鳴をあげた。
火傷を見慣れているはずの外科担当が、明らかに動揺している。
私の傷を覗き込んで、”おうおう” とか言って、顔をしかめる。
そんなに重傷なのか?
私は泣きたくなった。


当然のように、他の患者を後回しにして、処置室に担ぎ込まれた。
だがこの時でさえ、やはり、ストレッチャーは使ってもらえなかった。
脚が痛いんだから、余り歩かせないで欲しいと思う。


医師は、日本語が出来る人だった。
『私、日本の女性、大好きです。』 と、
『ダイジョブ、ダイジョブ』 以外の台詞は覚えていないが、本当に大丈夫だったのか?
ガーゼも包帯も足りないらしく、看護婦は急いで処置室を出て行った。
添乗員は、夫の中国語力と医師の日本語力とを信じ、保険の手続きのため、その場を離れた。
医師は、夫に色々説明しながら、縦横無尽に水ぶくれを切りまくる。

『あーあ! あんなに皮膚とっちゃって!』
私は更に泣きたくなった。
処置は適切だったのだろうか?
夜になるまでに、滲出する体液で、巻かれたコットンは全て濡れそぼって落ちた。
結局、ガーゼの上から生理用ナプキンを幾重にも当て、自分で包帯を巻き直して、無理やり出国することとなる。


  (まだ続く!)



 === 脚注 ===

注1: 彼女のおかげで、タクシー代から診察券のコピー代に至るまで、保険の請求が満額通った。
JTBの根津さん、ありがとう♪

注2: 感染の危険を避けるため、患部を冷やすときは流水がベストである。
氷を使うのは、末梢血管を収縮させることにもつながり、あまりお奨めできない。
本来なら冷やすのは一時間位で良いのだが、今回は、病院収容までの時間が余りに長かったため、疼痛を和らげるのと、感染防止の目的で例外的措置をとった。
本気で凍え死ぬかと思った。

注3: 乾燥地帯であるモンゴルの旅行ということで、ミネラル補給のため持って来ていた。 大正解♪

注4: シートを水浸しにすることになるし、感染の危険が大きいから。
 





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