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”私”という名の”彼女”

”彼女”は私であり、”私”は彼女である。
そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。


2003年08月18日(月) 犬が老けた、親も老けた、いつかみんな死ぬ




盆休み、2ヶ月ぶりに実家へ帰ってみたらば、犬がボロ雑巾のようになっていた。

輝く瞳の黒柴、カラスのように青光りする、素晴らしい毛並みの愛犬だったのに。

グルーミングを怠った挙句に毛玉となった死毛が首輪からあふれるようにして垂れ下がり、黒い被毛はフケにまみれて、まばらにそこにあった。

左目の角膜が白くにごっている。 眼瞼下垂も始まり、顔の左右が非対称だ。

まつげも眉毛も薄くなり、顔から精悍さを奪っている。 ひげが少なくなったし、少し間抜けだ。

体の肉が削げ落ち、一回りも二回りも小さくなってしまった犬は、それでもまっすぐに私を見ていた。

 ”僕はちゃんとお仕事してる!”

と、ニコニコ嬉しそうに。


 −−−


短い帰省の間、毎日、彼の世話をした。

一時間以上かけてブラッシングし、汚れた毛は全部とる。 庭中が毛玉だらけになった。 全部集めたら枕が出来る、と夫が冗談を言うくらい。

犬と散歩に行った。 彼の行きたいところはどこへだろうと連れて行ってやりたかった。 しかし、老犬の体力がそれを拒んだ。 引き綱にかかる彼の力は悲しいまでに落ちていた。 それほど引っ張るわけでもないのに、ハーネスがやせた身体に食い込んで、気管がつぶれてゼイゼイいった。 彼は酷く老けた。 周囲に羨ましがられた立派な若犬は、今、みすぼらしい老犬となった。 誰も彼を見ない。 見ても何も言わない。


父は心臓が悪い。 母は血圧が高い。 ばぁばは病院に入った。 もう二度と帰らない。

兄は仙台にいる。 私は東京にいる。 家の犬は幸せだろうか? 彼はこれからどこへいくのか?



 「いい柴犬ですね!」

と、以前はよく声をかけられた。 彼はそんなときいつでも胸を張って、
 ”どうだ!” といわんばかりに満足げ。 
私は彼が誇らしかった。 両親も色んなところへ彼を連れて行った。 山の中を走らせていて、猪と間違えられたことさえある。 疾走するつむじ風のような黒い影。 あの姿は今、過去となり、誰も何も知らない。


 −−−


今日からは仕事が始まる。 東京に戻らなくてはならない。 今朝早く、まだ暗いうちに、私は家を出た。
大きな荷物を抱え、足音を忍ばせて玄関から出る不審な人影。 犬は低い声で

 ”ウォッ!”

と、吼えた。 まったくひるまず、こちらを睨んで、数秒ごとに

 ”ウォッ!”

と、威嚇。

昔の彼だった。

瞳の奥が緑に光る、まごうことなき番犬の姿がそこにあった。



 「お前は、鼻も馬鹿になったねぇ…。」

主人の匂いがわからないトボケた犬に苦笑しつつも、私はちょっと幸せで、足取りも軽くなったのだった。




   まりぃ。@それでもみんな生きている


リリカル鬱日記:『まりりん32』@Pika del giorno d'altri tempi

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